パンツとパンツの違いについて

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【こんなのどうでしょう?】ヨーロッパユニバーサリスIII with ナポレオンの野望【完全日本語版】
ジャンル:
かきもの
シリーズ:
ほんやくメモ
種類:
読みもの
最終更新:
2007年02月05日 13時10分
シリアル:
2007-01-08-04

怠惰というかなんというか、僕はこれまで、海外のゲーム系サイトばかりをチェックしていて、国内のサイト、とくにブログや日記系のサイトはほとんど見ずに過ごしていたのだけど、これじゃあいかんということで、最近は努力していろいろなサイトをチェックするようにしています。『はてなダイアリー』などは、タレントのある人たちが集まっているようで、わりかし興味深い。

そのひとつ、たまごまごごはんの「オタク的「パンツ」の使い方についてかんがえてみた。」で、「そもそもパンツは下着のことじゃないよね」との記述を見つけた。そういうものだろうか。

検索してみると、外穿きのパンツと内穿きのパンツ、男性用下着の呼称としてのパンツと男女の下着の総称としてのパンツの問題には、世の多くの男性が頭を悩ませているようだ。

パンツとパンティ

ズボンとパンツ

昔、漫画やアニメにおけるパンチラ表現についてという駄文を書いたことがあるだけに、パンツに関してはなにがしかの責任を感じる。すこし詳しく調べてみることにした。

英語圏における"Pants"の定義

「そもそも」の話をするならば、パンツはそもそも日本生まれではなく、外国で生まれたのが渡ってきたものであるはずだ。英語圏での「パンツ」の用法を探れば、日本語におけるパンツの混乱をひもとく糸口になるかもしれない。英語圏でもっとも権威ある英英辞典であるOxford English Dictionary(第2版)のCD-ROM版を使って、pantsの定義に当たってみた。

pants, n. pl.

(p&nts)  [Abbreviation of pantaloons.] 

   1. a. orig. = Pantaloons; subsequently used for trousers, worn by either men or women. Chiefly U.S.  b. orig. colloquial and shoppy for drawers; now used for underpants, panties, or shorts worn as an outer garment: cf. hot pants (hot a. 12c).

PantsはPantaloonsの省略形であり、1.a.の意味として「= パンタロン。その後、トラウザーズを指して用いられた。男性と女性両方が着用する。おもに米」、1.b.の意味として「ドラワーズの口語・店員言葉;現在はアンダーパンツやパンティ、または外穿きとして着用するショートパンツに用いられる。例:ホットパンツ」とある。Trousersは長ズボンのこと。Drawersは、日本では訛って「ズロース」と呼ばれている、ズボンのような古い形式の下着。女性専用のイメージが強いが、もともとは男女両用である。記録に残った"pants" の使用例で、もっとも古いものは1840年。

上の定義から、パンツという言葉の両義性は日本固有の問題ではなく、英語圏からして下着と表着の両方の意味を持っていること、両方に"orig."の表記があることから、どちらかがどちらかの派生ではなく、両方とも原義とされていることがわかる。

パンツのふたつの進化

パンツの語源となったpantaloonsは、さまざまな時代にさまざまな衣服を指して用いられているが、もとは16世紀のイタリア喜劇に登場するキャラクターの一種、痩せて愚かで嫉妬深くてケチな老商人、パンタローネのこと。(ええ、そうです。からくりサーカスのパンタローネ様のことです) このキャラクターが穿いていた細い長ズボンが、のちのパンタロンの由来となる。

Pantaloonsは、早い例では王政復古 (1660) 以降に、すでにズボンを指して使われていたが、一般的に用いられるようになったのは18世紀末から19世紀初頭になってから。この時点では、パンタロンは、「ぴっちりした種類のズボンで、ふくらはぎの下でリボンもしくはボタンを使って留めるか、のちにブーツの下にストラップを通して留めるようになったもの」を指していた。このパンタロンは18世紀後半に誕生したもので、それまでのニーブリーチズ (knee-breeches) を駆逐するほどの人気を博したらしい。

誕生期のパンツが指し示していたのが、長ズボン状の衣服であることはまちがいない。だが、パンタロンが長ズボン状だったのだから、パンツとはそもそも外穿きのズボンを指すのだ──と一足飛びに考えてしまっては不足がある。19世紀はじめ、パンタロンが男性のあいだで一般的になるのとほぼ同時に、女性たちがまったくおなじものをスカートの下に着用しはじめたからだ。これは流行で女性の服装が軽装になった流れから生まれ、着たのはもっぱら若い女性だったという。

OEDによると、記録上で女性用のパンタロンについて言及したもっとも古い例は1821年。1830年代には、女性用のパンタロンとして、パンタレッツ (pantalettes) の語が用いられるようになる。パンツと略される以前から、パンタロンは外穿きと内穿きの衣装両方の意味を持っていた。これが、OEDで、外穿きと内穿きのパンツ両方が原義とされていた理由である。


余談だが、ヨーロッパでは、「服の下に着用する衣服」という厳密な意味での下着は長いこと存在せず、「下着的」である大部分の衣服は、肌着と表着を兼ねていた。ギリシャ・ローマ期の下着は、単なる防寒のための重ね着であった。中世にはシュミーズ (chemise) という下着があるが、これはもともと男女両用で、スモック (smock) の上に重ねたと言うし、さらにはその上からコルセット (corset) を着た記録がある。

そのいっぽうで、衣服そのものの変化と衣服を指す用語の変化が並行して起こっていたから、話はややこしい。イギリスでは、女性用のシュミーズは、13世紀頃からスモックと呼ばれるが、18世紀末には、ふたたびスモックに代わってシュミーズの語が使用される。スモックはスモックで、今日ではまた別の衣服の名称として使われている。男性用のシュミーズも変化を続け、19世紀に入ると今日のワイシャツに変化する。トリビア系の小話でよく出てくる通り、シャツの裾がカーブを描いているのは、下着として用いられていたときの名残りである。下着の大量生産がはじまったのは産業革命期の18世紀、今日の我々が良く知る下着のスタイルが確立されたのは、20世紀に入ってからだ。

20世紀に入ると、軽快化と表着化が下着の世界のキーワードとなる。軽快化とは、下着がだんだんと小型化し、覆う範囲が狭くなり、肌に密着するようになる流れを言う。下着の表着化については、上のワイシャツの例でいちど触れたが、20世紀におけるもっとも顕著な例としてはTシャツがある。表着としてのTシャツはだいぶ一般化しているが、いまだにマナーに厳しい場所では忌避される。

ブルマの歴史をちょっとでもかじったことのある方なら、アメリカのA.J.ブルマー女史が世に広めたもともとの衣服が、女性が運動しやすいようにという意図からデザインされたものであり、しかし、今日のブルマにくらべてはるかにゆったりとだぶついたデザインであったことをご存じだろう。今(……今じゃないか。体育着としてのブルマはもう滅んじゃったし)、ブルマを下着と見る人はいないが、そもそものブルマはスカートの下に着用するものだった。日本でも、導入初期は袴状のスカートの下にブルマを着用している。

※ブルマに興奮する人はいるが、彼らは下着としてのブルマに興奮しているのではなく、下着としか思えないようなデザインの服を表着として用いる倒錯に興奮していることに注意。

たまに間違われるが、ブルマー女史はブルマの考案者ではなく、エバンジェリストである(ほんとうの発明者はElizabeth Smith Millerという女性。1850年のこと)。女性がスカートの下に穿く下着としてのパンタレッツは、服飾の流行が変化するにつれて衰退し、19世紀中盤にはほとんど使用されなくなる。しかし、その一方で、ブルマー女史が広めた衣装は、「ムッシュ・ローブ」(つまり、婦人服を着た紳士)と皮肉られた「自転車に乗る女性たち」によって使用され、18世紀後半になると、パンタレッツは、暗に、彼女たちが穿くドラワーズ・トラウザーズやブルマ、サイクリング用のニッカーボッカーズ (knicker-bockers) を指して使われるようになる。

パンツ = 下着 と パンツ = ズボン という等号については前に触れたが、パンタレッツを連結点として、ここに、パンツ = ブルマ という等式があらたに導入されたことになる。そう、ブルマはパンツだったのです! これを見ても、服飾に関する用語は、服そのものの変化と名称の変化・再利用という問題が絡まって、非常に複雑であることがわかる。

とりあえずのまとめ

  • 日本だけでなく、英語圏でも、パンツは外穿きのズボンと内穿きの下着の両方の意味を持っている
  • パンツはもともとパンタロンの略語
  • パンタロンは裾の長い衣服だが、表着としても肌着としても用いられていた
  • パンツはどんどん小さくなっていった

さらに余談だが、OEDのpantsの項目には、1846年の使用例として、"The thing named pants in certain documents, A word not made for gentlemen, but gents"なる一文が掲載されている。「パンタロンのことをパンツって書いてる人が一部にいるけど、そんなんはジェントルマンやない! ジェントや!」と憤っているわけだ。

かつて日本に「ブログ」という言葉が紹介されはじめたころ、ある方が「ブログはweblogの略だと言うが、これはどうも気に入らない。ブログがweblogの略なら、今日から私の日記はブ日記だ!」と宣言したのを読んでおおいに噴き出した記憶があるけど、こういうセンスは19世紀から既に存在したらしい。パンタロンとパンツ、ブログと日記という語のその後の趨勢をあわせて鑑みると、しみじみと面白い。(ちなみにその方は、いまはブログ用のソフトウェアを使って日記を構築していらっしゃいます)

パンツとパンティの問題

さて、パンティの話。

女性がスカートの下に着用するパンタロンはパンタレッツと呼ばれた。これはパンツとパンティの対応関係を考えるうえで興味深い。

pantaloon → pantalette, pants → pantie/panties/panty に変化する際の接尾辞、"-ette", "-y", "-ie"は指小辞ししょうじと呼ばれるもので、元の語句に小さなもの、かわいいもの、愛着や親しみといったニュアンスを追加する。例えばcigarに対するcigarette, dogに対するdoggieがこれだ。

"-ette"はもともとフランス語名詞の女性形に由来するが、男性形をあらわす"-et"との使い分けは、中世英語においてもあいまいであり、よく混同して用いられていた。英語圏においても、ごく稀に、"-ette"が名詞の女性形をつくるために用いられることがあるが(これを女性接尾辞と呼ぶ。例:suffragette, 女性参政権論者 / usherette, 案内嬢)、この用法は20世紀に入ってからのもの。

ただ、これらの指小辞は、元の語句に嘲りや侮蔑のニュアンスを追加するためにも用いられる。これは、「小さい」「かわいい」がときとして侮蔑のニュアンスを含むのと同根かもしれないが、OEDの記載からすると、愛称としての"-y/-ie"と、侮蔑のための"-y"は、そもそも別の系統の言葉だったのかもしれない。

OEDで"panties"を引くと、まず、"Men's trousers or shorts. Usu. in derog. contexts"なる定義が出てくる。OEDの定義順は『広辞苑』と同じ登場年代順で、先に出てくる語義のほうが古いのだが、この言葉が文書に登場しはじめる19世紀中頃(1845〜)には、男性用のズボンやショートパンツのことをパンティと呼んでいたことがわかる。女性用の下着として「パンティ」の語が用いられるようになるのは、20世紀に入って以降のことだ。

全国の下着倒錯者の皆さんに朗報です! 今日からあなたたちは堂々とパンティを穿いてかまいません! と宣言したいところだが、悲しいことにこの定義にはまだ続きがある。「通常、軽蔑的な文脈で用いられる」というのがそれだ。『リーダーズ・プラス』を引くと、"pantie"の意味として、俗語で「ムショ内のホモがはく下着」という記述がある。ここでもパンティは馬鹿にされているわけだ。

男性用ズボンの侮辱語としての「パンティ」は、女性用下着を「パンティ」と呼ぶのが一般的になるにつれて消えてゆく。とはいえ、意味がスライドしただけで、男性用下着を「パンティ」と呼ぶことで相手を侮蔑するのは、いまも可能だろう。男子の皆さんは、小学校のプールの時間、水着に着替えている最中に、突然、「こいつ女の下着穿いてるぜ!」と指さされた場合のショックを考えていただきたい。学校のトイレで大便したことが露見するクラスの破壊的な出来事であることは容易に想像がつく。

とはいえ、現在、英語圏の一般的な使用において、pantiesが侮蔑的なニュアンスを持っているとは考えられない。COUBUILD for Advanced Learner's English Dictionaryのpantsの定義から、欧米におけるパンツとパンティの現状を見てみよう。

pants - shorts

In British English, pants are a piece of clothing worn by men, women, or children under their other clothes. Pants have two holes to put your legs through and elastic round the waist or hips to keep them up.
  Men's pants are sometimes referred to as underpants. Women's pants are sometimes referred to as panties or knickers.

In American English, men's pants are usually referred to as shorts or underpants. Women's pants are usually referred to as panties.
  In American English, pantsare men's or women's trousers.

In both British and American English, shorts are also short trousers that leave your knees and part of your thighs bare.

「足を入れて通すためのふたつの穴があり、ずり落ちないように、ウェストまたはヒップの周りに弾力性がある」と、パンツがいかなるものであるか律儀に解説しているのが、辞書としてのコウビルドの面白いところだが、ともかくイギリス英語では、パンツは男性・女性・子供がほかの服の下に着る衣服のことである。男性用のパンツはときおりアンダーパンツと呼ばれ、女性用のパンツはときおりパンティまたはニッカーズと呼ばれる。

いっぽう、アメリカ英語では、男性用のパンツは通常ショーツまたはアンダーパンツと呼ばれる。女性用のパンツは通常パンティと呼ばれる。アメリカ英語では、パンツは男性用または女性用のズボンを指す。

イギリス・アメリカ英語の両方で、ショーツは膝まで届かず、ももの一部が露出する短いズボン(つまりショートパンツ)のことも意味する。

前出の「たけくまメモ」のコメント欄には、(英語圏では)「普通のズボンはアウター・パンツ outer pants」と呼ぶという意見が投稿されていたが、おそらく、普通のズボンをアウター・パンツと称するのは、和製英語の類いだろう。

"Outer pants"でgoogle検索すると、海外圏でも"outer pants"の語を使用した例は見つかるが、水着のパンツの外側にもう一枚、伸縮性の高いパンツを重ねたものをこう呼ぶ例や、おむつの上に重ね穿きするパンツや、ウィンタースポーツで長ズボンの上に重ね着する長ズボンを"outer pants"と呼ぶ例が主流で、単に外穿きのズボンを指して"outer pants"と呼ぶ例は見つけられなかった。同種類のpantsを二枚重ねたとき、区別のために外側のパンツを"outer pants"と呼んでいると考えたほうが自然だろう。

もうひとつ付け加えておくと、製品の名称がpantie-beltやpantie-girdle, pantie-hoseやpantie-stockingsのような複合語をなす場合、その製品は、パンティとそのあとに続く下着の機能両方を兼ねていることをあらわしている。したがって、全国の痴女の皆さんに朗報です! 言語学的見地からすると、あなたがたはパンストの下に下着を穿かなくてかまいません!

日本におけるパンツとパンティ

日本において、パンツは長い間、もっぱら男性用の下着を指していた。ズボンの呼称としてのパンツは、1960年代以降、ジーンズ・パンツやホット・パンツなどのパンツルックの流行とともに導入されたものだ。ジーンズの一般化は1969年以降。当時のベルボトム・ジーンズは、一種の反体制のシンボルだった。ホット・パンツの流行は1972〜73年。このちょうど中間、1971年には、裾の広がった長ズボンが、パンタロンの名称で日本へ紹介されている。

男性が素朴に「パンティはパンティだ」と信じていた女性用下着に「パンツ」という呼び名があたえられたのはいつだったのだろう。たけくまメモのコメント欄によると、宮崎勤事件の際、彼が「今田勇子」の偽名を使って出した犯行声明文に「パンティ」という言葉が使われているのを見て、多くの女性が違和感を感じ、犯人は男性ではないかとの印象を持ったという。事件が起きたのは1989〜90年。この頃には、「パンティ」という単語は、すでに女性のあいだでは「ふつう」のものではなく、軽蔑的なニュアンスを含むと認識されていたらしい。

Excite Bitの「紀元前までパンツの歴史を追う」を参考にさらにさかのぼると、下着メーカーであるワコールが、製品にはじめて「パンティ」の名称を用いたのは、昭和31年 (1956) の「ウィークリーパンティー」だったという。これは、当時白が普通だった女性用の下穿きを7色セットにして、「その日の気分にあわせてショーツの色をかえる」というコンセプトで売り出した商品であり、大変センセーショナルなものとして話題を呼んだとある。ここから考えると、日本においては、「パンティ」という語には、かなり初期から性的な煽情性のニュアンスが付加されていたのかもしれない。「女性は下穿きのことを一般的にパンティと呼んでいる」という認識は、そもそものはじめから男性の勘違いだった可能性すらある。

いっぽう、chairmanをchair personやchair, firemanをfire fighterに言い換えるようなポリティカル・コレクトネスの波を経た今でも、北米圏では、女性用下穿きの名前として、普通にpantiesの語が用いられている。たとえば、ことさら性的な機能を売りにしない、ごく普通の下着のオンラインショップ、Bare NecessitiesFreshpairにも、分類のひとつとして"Panties"の名前が見える。したがって、欧米圏での使用例を楯にとって、パンティ派の人々がこれからも「パンティ」の用法を頑なに貫くことは、いちおうは可能だろう。

なお、前出の「紀元前までパンツの歴史を追う」によると、ワコールでは、いまは男女の下着ともに「ショーツ」という言いかたを推奨しているようである。

しかし、先に出てきたように、「ショーツ」という言葉も、下着と同時に表着としてのショートパンツの意味を持っている。パンツに限らず、服飾の名称は、複数の言葉が似たような領域を共有しており、流行の変化や商業的な命名戦略、それ以外の外部要因に応じて、領域の支配色が塗り替わったり、あるいは領域そのものが移動・変化しつづけてきたものらしい。くわえて、日本の場合、外国からの流行の紹介に際して、元の文化圏では連続的な系統上に位置づけられていたものが、文脈から切り離され、別のものとして導入された可能性についても考慮すべきだろう。(同じ漢字であっても、日本に導入された時期によって、呉音や漢音のように読みが異なる例を想起していただきたい) 衣服をめぐる言葉とは、言語学的に見て、じつは非常に興味深い研究対象なのかもしれない。